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『トップ・レフト』 [黒木亮]

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黒木亮著
『トップ・レフト―ウォール街の鷲を撃て』
祥伝社、2000年11月

内容(「BOOK」データベースより)
欲望とリスク、栄光と失意が交錯するロンドンの国際金融ビジネス。都銀上位行の富国銀行ロンドン支店次長の今西は、じり貧の邦銀で必死にディールをこなしていた。案件の多くは中近東を中心とする国際協調融資。ある日、今西に日系自動車会社のトルコ現法向け1億5千万ドルの巨大融資案件が持ちかけられた。資金の使途はイラン工場建設資金。が、米国の投資銀行に勤める日本人龍花がその情報を聞きつけた。強引な手法で単独・全額引受け(ソール・アンド・フルアンダーライト)を目指すウォール街の鷲と、誇り高き金融街シティの契りで結ばれた今西率いる四行共同引受けグループとの息詰まる闘い。その渦中で、世界の金融界を揺るがす巨額のM&Aが持ち上がった…。果たして栄光の主幹事の座を射止めるのはどちらか?在英現役国際金融マンが空前のリアリティで描く、驚嘆の国際経済小説。

夏に黒木亮著の『シルクロードの滑走路』を読んで、本ブログでレポートしたことがあるが、ちょっとまとまった休日があると、なんとなく読んでみたくなるのが、国際金融業界を舞台とした長編小説である。2000年に発表された『トップ・レフト』は、その黒木氏の処女作だ。

僕も昔一時期シンジケート・ローンに関係する仕事をやっていたことがある。だけど、案件を発掘(オリジネート)する銀行側での仕事ではなく、逆にどこかの銀行が引き受けた案件の切り売りに応じて少額の参加をするような「サブ・パート(Sub-Participation)」をやっていたに過ぎない。地方銀行の実力なんてそんなものだ。しかも、利回りはLIBORプラス何BP(ベーシス・ポイント)で提示されるが、当時は既にジャパンプレミアムと呼ばれて邦銀はインターバンク市場でLIBORでの外貨資金調達が既に困難になりつつあったため、相当なスプレッドがないと鞘を抜くことができず、地銀がシンジケート団に加わることなど、10回invitationをもらっても1回か2回あるかどうかといった状況だった。(地銀の方がたいてい外貨調達コストが高いので、都市銀行と比べると参加できそうなシンジケート・ローンは少ないのは当然だ。)

即ち、僕は都市銀行や外資系銀行からinvitationを貰ったシンジケート・ローン案件について、そのリスクと収益性を分析して、マネジメントに結果を説明し、参加の適否の判断を仰ぎ、参加するならクロージングの前に参加表明をすることが仕事だった。だから、invitationを送ってくる側で、そのマンデートを取るのにどれほど生々しい銀行間の競争を勝ち抜いてきたのか、「LIBORプラス何ベーシス」の背後にあるレンダーとボロワーの駆引きなど、募集しても参加者が集まらない場合の対応など、その道の仕事をやっていても知らないところが多かった。

本書は、そうした、「LIBORプラス何ベーシス」の裏で繰り広げられた金融マン同士の息詰まる戦いを描いた小説である。『トップ・レフト』『アジアの隼』『シルクロードの滑走路』と著書を読んでいて強く感じるのは、黒木氏は実際にロンドンの金融街で様々なファイナンスのディールをまとめてきた自身の経験に基づいて描かれていて、とてもリアルであるということだ。シンジケート・ローンの実務なんて、僕が異動でその部署に配属された時には上司が教えてもくれなかった「アート(芸術)」の世界の話で、地銀レベルではマニュアルなど全くない。そんな中で、この小説は所々で丁寧な金融用語の解説まで付いていて、シンジケート・ローンの入門書としては最適ではないかと思う。

それにしても、こういう小説を読んでいると、最近議論が小康状態に入っている政府系金融機関の統廃合問題、企業向けの公的融資の是非については、僕は政府系金融機関は依然として必要なのではないかという気持ちが強くなった。おそらく、国際協力銀行(JBIC)の国際金融勘定を民営化してしまっても、喜ぶのは外資系の投資銀行ぐらいではないかと思う。それが国益にかなうのだろうか。
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