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農村への保険商品の浸透 [インド]

最近、保険会社の看板を至るところで見かけるようになった気がするのは気のせいだろうか。保険商品はちょっとリッチになってきて保険料を払えるようになってきた都市の中間層を対象にして市場拡大してきたのかと思っていたら、結構農村部にも食い込んでいるのを紹介した雑誌の記事があった。少々古いが雑誌『India Today』8月18日号に掲載された「COUNTRY ROADS(田舎の道)」(Nivedita Mukherjee記者、pp.40-42)である。
村の富(Village Wealth)
◆インドの保険業界の純資産(net worth)は既に5,000憶ルピー規模に拡大しているが、農村部をカバーすることでさらに100ルピーの純資産増が期待される。
◆農村保険市場は現在は195憶ルピー程度であるが、2015年までには780憶ルピーの規模にまで拡大すると予想されている。
◆インドには63万8000の村があり、そこに1560万世帯が住んでいるが、現在保険でカバーされているのは総世帯数の8~10%程度でしかない。
◆インド農村部には、伝統的な農業とは異なる専門的職業から収入をあげている人が2億人おり、その収入を保管しておく代替手段を必要としている。
僕はこれまでインドの農村保険といったら掛け捨てだとずっと思っていたのだが、貯蓄性の高い保険商品まで農村部に投入され始めているというのがわかったのがこの記事をブログでクリップしておきたいと思った理由である。

例えば、ウッタルプラデシュ州アラハバードの農民であるラムさんが加入したのがMax New York Life Insuranceの「Max Vijay life insurance cover」というプランで、これは1000ルピーの保険料で10年加入し、死亡保障と満期後の保証給付という、保険と貯蓄の両方の機能を有する。

インドでは、保険業規制・開発委員会(IRDA, Insurance Regulatory and Development Authority)の規制で、保険会社は農村部でも事業を行なわねばらないことになっており、既に事業の7~19%を農村部に投入している。しかしこれまではそれが規制に基づく義務感から行なわれてきたが、最近では農村での事業展開が義務以上の意味を持ち始めていると記事では指摘されている。こうした農村部への浸透を進めている保険会社には、Aviva、Bharti Axa、Bajaj Allianz、ICICI Prudential、Kotak Life、Tata AIG等がある。これらの保険会社が行なった市場調査によれば、現在農村部では総世帯の8~10%しか保険でカバーされていないが、カバーされていない大多数の世帯も含め、農村人口の多くが、郵便局や銀行以外のチャンネルでより利回りの良い貯蓄機会を求めていることがわかったという。

郵便局の少額貯蓄制度の利率は3.5~7%程度で銀行の定期預金より低い。一方、銀行に行こうとなると村人はたとえ100ルピー程度の貯金でも何時間もかけて(ある調査では片道3時間)行かねばならず、行けば行ったで店頭で並び、預金を預け入れるのにさらに待たねばならない。こうしたアクセス上の大きな問題が既存の金融サービスには存在していた。記事では、こうしたアクセス上の問題を克服して保険会社が農村部に浸透していく努力が紹介されている。

第1に、村人でも購入可能な保険商品の独自開発である。Tata AIGによれば、「保険料が月100~120ルピー程度の市場では、商品開発の余地はあまり大きくなく、15000~20000ルピー程度のカバレッジで掛金を150から300ルピーに抑えた商品が農村では最も機能する」という。KotakのGramin Bima Yojanaも、200ルピーから最大20000ルピーの掛金を1回払い込むだけで満期時に1.5倍の返戻金があるという定期預金に近い性格を持った商品である。例えば、5000ルピーの掛金で15年満期のGramin Bima Yojanaを購入した場合、満期時の返戻金は7500ルピーになるということである。Tata AIGのAyushman Yojanaの場合は、10年満期で掛金の25%増しの返戻金が戻ってくる。

第2に、他業種との提携も商品開発の一助となる。Bajaj Allianzはマイクロファイナンス金融機関であるSKS Microfinanceと提携してSwayam Shakti Surakshaという商品を開発している。これは月々の掛金支払を50ルピー未満にしたい村人向けの商品で、例えば月々45ルピーの掛金で5年満期とすると、満期時の返戻金として2500ルピーが戻ってくる。勿論、保険商品なので、事故や疾病による障害保障と死亡保障が付いている。Escorts Agri社がNew India Assurance Companyと提携して商品開発したHumrakshakは、今年5月1日以降にトラクターを購入した農民の個人事故保障を30万~70万ルピーの規模でカバーできる商品である。

第3に、新技術の活用による商品開発も挙げられている。ICICI Prudentialは、パンジャブ州とアンドラプラデシュ州で生体認証機能を持ったスマートカードを用いた保険商品をパイロット的に導入した。このスマートカードには加入者の保険証券情報とこれまでの取引履歴が全て記入されており、余分なペーパーワークの費用を削減している。これにより、ICICI Prudentialは今年4-6月期だけで20万件もの保険商品を販売した。Max New York Lifeも、2007/08年度の当初目標の16万5千件に対して、実際には18万9千件の売上を記録した。業界全体でも昨年度は5000万件の保険商品売上があったが、うち1100万件は農村部での売上だった。

第4に、こうした商品を農村部で浸透させるためには、商品開発だけではなく、実際に販売するルートの開拓も重要な課題となるが、こうした保険会社は他社との提携によってこの課題を克服しつつあるという。例えば、Bharti Axaは同系列の携帯電話通信業者Airtelが国内40万ヵ所で展開しているエアテルショップで保険販売を行なっている。Tata AIGはRural Community Insurance Groupsという女性グループと提携している。女性がTata AIGのバンに乗って村々を練り歩き、保険加入のメリットを説いて回り、掛金の集金も行なうのだという。Max New York Lifeの場合はIndian Oilと提携してガソリンスタンドでの保険販売を展開している。

Bharti Axaの場合は、保険リテラシー教育の普及も保険商品の市場拡大には不可欠だとして、村の長老や学校の先生に保険について説明してもらうよう仕向ける活動を行なっている。保険証券はローカル言語版も用意されている。ICICI Prudentialのコールセンターでは、顧客はローカル言語での相談も選択できるようになっている。

農村部へのアプローチ方法は、こうして並べてみるとどれも日本ではよく見かけたものであるように思えるが、意外と見落としてしまうことが多いように思う。僕がインドの農村部を歩いた回数など限られているが、少なくともデリーでのイベント会場等では保険会社のブースをちょくちょく見かけた気はする。この記事だけではどの会社の農村浸透度が高いのか、農村部でのマーケットシェアがわかるともっと面白いのだが、直感的にはTata AIGやBharti Axaのチャンネルが最も農村でのアウトリーチには有効ではないかという気がする。また、農村部で村人を対象としたイベントが行われるところに保険会社を引っ張り込めれば、イベントの費用負担も少しばかり手伝ってもらって主催者とwin-winの関係ができそうだという気もした。
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コメント 2

降龍十八掌

保険料も払えない降龍には敷居が高いぃ~。
国家が保険してくれないから、保険会社があるのか?保険会社があるから国家は何もしないのか?
生活保護が完璧に施行されれば、保険も必要ないと思うんですけどね。
by 降龍十八掌 (2008-11-02 19:40) 

Sanchai

降龍十八掌さん、コメントありがとうございます。
さすがですね。実は、この記事を書いた後、政府は何もしないのかという論点で1編論文を紹介しようかと思っていたところでした。
by Sanchai (2008-11-03 02:34) 

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