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高成長?雇用はあまり増えてない [インド]

先週ネルー大学で受けた特別講義に関しては、既に幾つかの記事で紹介しているが、これまでに述べた以外にも印象に残っている講義が幾つかある。産業開発研究所(Institute for Studies in Industrial Development, ISID)の理事でインド労働経済学会(Indian Society of Labour Economics)会長でもあるパポーラ教授(Prof. T. S. Papola)の講義もその1つである。そのタイトルは「インドにおける労働市場と産業関係:最近の発展(Labour Market and Industrial Relations in India: Recent Developments)」である。講義備忘録として、その際のお話のキーポイントを紹介してみたい。

1)労働力人口は2005年1月時点で約4億7600万人。男性労働力人口の54.7%が労働市場に参加しているが、女性労働力人口の労働市場参加率は28.2%に過ぎない。また、都市と農村にも大きな違いがあり、農村部における女性の労働市場参加率は32.7%であるのに対し、都市部においてはわずか16.6%に過ぎない。産業別雇用割合(2004-05)を見ると、第1次産業が最も多く56.5%、続いて第3次産業が24.8%、第2次産業は18.7%である。雇用吸収力で見た場合のインドの主力産業は依然として農業であり、近年の発展はサービス業が牽引してきた姿が確認できる。

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特別講義期間中の昼食の風景(講義とは直接関係ありません)


2)雇用形態の構成を見ると、2004-05年において、自営(Self-Employed)が56.5%、正規雇用(Regular Employee)が15.2%、非常勤雇用(Casual Labour)が28.3%となっている。この比率は、1972-73年当時と比較しても殆ど変わらない。但し、自営は1990年代を通じて下落傾向にあったものが2000年代に入って反転し、56.5%に回復している。正規雇用も1993-94年当時(13.5%)から比べると回復傾向にある。一方で非常勤雇用の動きは複雑で、1972-73年(23.3%)から1999-00年(32.7%)にかけて約9ポイントの上昇をしてきたものが、2000年代は反転して28.3%になっている。農村と都市の比較をすると、農村部では自営(60.1%)と非常勤(32.8%)で大半を占めている。逆に都市部では自営(45.4%)、正規(39.5%)で大半を占め、非常勤は15.1%程度である。

3)正規部門での雇用数を見ると、全体では2200万人(1981年)から2646万人(2005年)に増加している。一方で、その構成を政府部門と民間部門で見ると、政府部門の割合は70.38%から68.06%に低下している。1997年から2005年にかけて160万人もの雇用の減少が見られる。逆に民間部門は1981年の650万人から1997年の875万人にまで雇用増が見られるが、それ以降は減少が見られ、2005年には845万人となっている。即ち、正規部門では1997年以降雇用数が減っている。

4)主要部門での雇用増加率を見ると、1993-94年から2004-05年の11年間で、農業はわずか年平均0.84%しか増加していない。公益部門は▲1.78%である。第3次産業で大きな貢献をしているのは建設業(7.32%)と貿易・ホテル業(5.33%)、運輸交通(5.25%)等で、サービス業は1.34%と低い。労働力人口の増加率に比べて、経済を牽引しているといわれるサービス業の雇用増加率はあまり大きくない。全体でも年平均1.98%の増に過ぎず、経済成長率に対して雇用はなかなか増えていないという現実がよく表れている。主要部門の経済成長への寄与度について比較してみると、第1次産業は2004-05年時点で全雇用数の56.53%を占めるが、GDPの20.46%しか占めない。逆に第3次産業は全雇用数の24.80%に過ぎないが、GDPの52.37%を占める。

5)興味深いのは、産業別の雇用の弾力性である。1であれば同部門が1%成長すると雇用も1%増加するとみなし(「弾力的」と表現)、0であれば同部門は成長しても雇用が全く増えない(「非弾力的」と表現)とみなす。1993-94年から2004-05年の平均で、経済全体では0.32だが、公益部門は▲0.31と、部門が拡大しても雇用は減少するという現象が起きている。弾力性が高いのは建設部門(0.98)である。しかも、この雇用の弾力性は、1972-73年~1983年、1983年~1993-94年と比べて直近の11年間の弾力性が低下傾向にある(0.53⇒0.40⇒0.32)。落ち込みの激しいのは鉱業部門(0.86⇒0.59⇒▲0.07)、公益部門(1.00⇒0.64⇒▲0.31)、金融、保険、不動産、コミュニティ・社会・個人向けサービスといったサービス部門(0.70⇒0.54⇒0.19)である。サービス部門が経済成長を牽引していることはよく言われるが、雇用の増加への貢献は1991年の経済自由化後に大きく低迷している。

6)失業率を見ると、2004-05年の全国平均では8.3%と高いが、州別の内訳を見ていくと、ケララ州の失業率が25.2%と圧倒的に高い。他に2桁の失業率を記録しているのはビハール州(10.0%)、オリッサ州(15.0%)、西ベンガル州(10.5%)。(ケララ州の失業率が何故こんなに高いのか、僕の職場の超ベテラン非常勤スタッフJ氏がケララ出身だから聞いてみたところ、①ケララ州は元々出稼ぎが多く、その多くはドバイやサウジアラビアといった中東湾岸諸国である、②その出稼ぎ所得がかなりよく、大きく稼げるので、同州に残された家族は送金収入を得ることが可能である、③出て行った若年労働力はいずれ出稼ぎから戻って来るので、残された家族(年寄りが多い。ケララの高齢化率が高かったことも思い出してみて欲しい)は汗水たらして働く必要もあまりない、④同州には大都市がなく、観光以外に州内での所得拡大機会があまり多くない、ことなどが考えられるとのことである。)

7)最終学歴別の失業率も興味深い。最終学歴が高くなるほど失業率が高くなるという傾向が読み取れる。苦労して大学までは出たけれど、気付けば職はいっぱいあるわけではないということだろうと思う。

8)労働争議の件数を見ると、経済自由化後ストライキ件数は1278件(1991年)から174件(2002年)に急減している。ロックアウトも変動はあるものの、ピークの703件(1992年)から212件(2002年)に激減している。雇用されてしまえば自由化は被用者にとってはハッピーであるということなのだろう。1組合当たりの組合員数は1998年の979人がピークで、その後2000年には749人に減っている。総被用者の2%しか組合に加入していない労働組合はますます活動が停滞してきている。

結局のところ、職につくまでのハードルがかなり高く、職についてしまってからは労働者は意外にハッピーなのだということなのだろう。そうすると問題は職にありつけるのかという点に絞られてくる。この点はもモニール・アラム教授の論文でも度々指摘されている。
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