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アラム教授との面談に向けて3 [インド]

この記事は一度入力したのにソネットブログのサーバーエラーでどこかに吹っ飛んでしまった[がく~(落胆した顔)]ものを、記憶を辿りながら再現しようと試みたものです。記事が吹っ飛んだ時点で気力が途切れてしまいました[もうやだ~(悲しい顔)]が、アラム教授との面談日は迫ってきており、やっぱり頭の整理は必要だと思い、気力を振り絞って再度入力してみることにします。でもホントにやりたくない[むかっ(怒り)]。恨むぞソネット[exclamation×2]

3.Institute of Economic Growth, Working Paper Series No. E/290/2008
"Ageing, Socio-Economic Disparities and Health Outcomes: Some Evidence from Rural India"

これまで2回にわたって紹介してきたアラム教授の論文は、南アジアの人口動態予測を概観するものであった。インドの人口動態予測が中心ではあったものの、スリランカやパキスタンの人口動態に関する情報は自分も初めて接するもので、参考になった。一方で、僕がちょっと興味があった州別の人口動態予測まではカバーされていなかった。推計値の算出に国連人口推計を使っているので仕方がないところではある。今回ご紹介する論文は今後の予測を扱っていない。むしろ、現在と現在に至るまでの過去に焦点を当て、州別の比較分析にウェートを置いている。

1)インドの高齢者は圧倒的に農村部に多く居住する。各州間でその分布状況にはバラつきはあるが、その大半が低い消費水準で遅れた経済状況に置かれている。グローバル化の中で彼らの状況は殆ど顧みられてもいない。

インドにおける州別の高齢化率(60歳以上人口の総人口に占める割合)を見てみると、平均では男性7.12%、女性7.85%と高齢化社会入りの目安と言われる7%に既に到達している。これに対して、多くの州で平均を大きく上回る数値を既に記録している。ケララ(各々9.60%、11.32%)、ヒマーチャル・プラデシュ(8.79%、9.28%)、マハラシュトラ(7.81%j、9.74%)、パンジャブ(8.60%、9.53%)、タミル・ナドゥ(8.78%、9.00%)等で高い。また、女性の高齢化(feminization)も顕著であり、ビハール(6.77%、6.50%)やウッタル・プラデシュ(7.08%、6.99%)の2州を除き、全ての比較対象州で女性の高齢化率が男性のそれを上回っている。農村部の高齢化率が都市部と比べて著しく高い州としては、ヒマーチャル・プラデシュ、ビハール、マハラシュトラ、オリッサ、ウッタル・プラデシュ、ラジャスタン州等が挙げられる。

本稿では、異なる社会グループ間での高齢化率の比較も行なっている。「指定カースト(SC、Scheduled Caste)」「指定部族(ST、Scheduled Tribe)」そして「その他」のグループである。当然ながら、この「その他」のグループには高カーストの人々が含まれる。社会的に恵まれた人々である。そして、この「その他」のグループの高齢化率は、SCやSTと比べて高くなっている。SCやSTといった社会的弱者では75歳とか80歳とかまではなかなか生きられない。また、全般的に女性の方が長生きするという傾向は各社会グループ間で見られるが、このことは、高齢の未亡人は身体的に障害のある女性の所得保障や健康保障に難しい問題を投げかける。特に、農村部に住む女性や80歳以上の超高齢の女性についてそのことが言える。

超高齢化については、ケララ、パンジャブ、ヒマーチャル・プラデシュ、マハラシュトラ、カルナタカ州等で顕著になってきている。女性の超高齢化も同様である。ビハール、ウッタル・プラデシュ州では女性の高齢化率が男性に比べて低いことは既述の通りだが、タミル・ナドゥ州でも65歳以上になると女性の高齢化率の方が低くなる。80歳以上になって男性が女性を逆転するのはハリヤナ、オリッサ州でも見られる興味深い傾向である。

ケララ、パンジャブ、マハラシュトラ州の高齢化の進行速度は非常に速く、農村女性人口の10%以上が60歳以上の高齢者となっている。逆に、ビハール、マディア・プラデシュ、ラジャスタン、ウッタル・プラデシュ州といったいわゆるヒンディー語圏の各州では高齢化率が全国平均よりも低い。

2)インド農村部には、家族とその人的ネットワークを通じて提供されるインフォーマルな長期高齢者ケアはあるものの、フォーマルなサービスとしては全く存在しない。家族の支援もない高齢者は日常生活を送ることにも深刻な支障がある。

2001年センサスをもとに従属人口指数(15歳未満の子供と60歳以上の高齢者人口の合計が15-59歳の生産年齢人口に占める割合)を見ると、現役世代にかかる負担は非常に大きいことがわかる。特にSCやSTではこの負担が非常に大きく、SCではビハール、ラジャスタン、ウッタル・プラデシュ、STではウッタル・プラデシュ州が同指数で100を超えている。(勿論、従属人口指数が高い理由は年少人口の従属指数が高いからであって高齢者人口の従属指数はせいぜい11~15%程度である。従って、ここで言いたいのはむしろ、従属人口指数が高過ぎて現役世代はこれ以上の負担をする余裕がないという状況にあるということである。)

所得水準の近似値として、1人当たり月平均消費支出額によって比較をしてみると、第1に、60歳以上の高齢者が同居している農村家計の消費支出額は、国際的に使用されている絶対的貧困の基準である「1日1ドル」を割り込む州が多い。特に、オリッサ、ウッタル・プラデシュ、マハラシュトラ、西ベンガル、ビハール州等では1日50セントにも満たない。第2に、1つの州を取ってみても、州内での消費水準のバラつきがかなり大きく、農村高齢者の置かれた経済的状況はかなり大きなバラつきがあると考えられる。消費水準が低い家計の同居高齢者は基本的な生活ニーズすら満たされていない。また、1995-96年から2004年にかけて、この消費水準のバラつきがさらに拡大している。マハラシュトラ、カルナタカ、パンジャブ、ラジャスタン、ウッタル・プラデシュ、西ベンガル州等で特に見られる傾向である。これは高齢者同居家庭の生活格差が拡大していることを示している。また、社会グループ別で見るとSCやSTではこの調査対象期間の間に殆ど消費水準の向上が見られないこともわかる。マハラシュトラやマディア・プラデシュ、オリッサ州で特に深刻である。こうした状況を鑑みると、農村部の高齢者同居家庭において日々の消費に必要な蓄えを行なうことは困難であり、しかも困難の度合いが徐々に高まっていると言うことができる。

3)農村部に住む高齢者は自分の健康状況に満足していない。

満足していないと思っている高齢者は全国平均では総人口の24%だが、ケララ(40%)、西ベンガル(38.5%)、オリッサ(30.5%)、ウッタル・プラデシュとビハール(26%)等が平均より高い。社会グループ別で見ると、SCで健康状況に不安のある高齢者の割合が高い。逆に、STで健康状況に不安を感じている高齢者の割合は、より社会的地位の高い階層よりも低い。また、男性と女性をを比べると女性の方が健康状況に不安を感じている。健康状況は歳を重ねるにつれて不安が高まるものであるが、特にケララ、オリッサ、西ベンガル州の75歳以上の高齢者で特に不安を抱える人が多い。

実際の疾病率で見た場合、社会的地位が上の階層ほど1つないし2つ以上の症状を訴える割合が高いという結果が出ている。この解釈については、SCやSTになると疾病という認識をそもそも持っていないのではないかと著者は述べている。性別での疾病率を見ると、女性の方が症状を訴える割合が高い。また、これとも関連するが、超高齢者になるほど複数の症状を訴える割合が高いという傾向も確認できる。

4)こうした健康上の不安を訴える高齢者の置かれた社会経済状況を見ると、低カースト、超高齢、非識字、経済的依存度の高さ、1人当たり消費支出が低水準である家庭の出身、適切な下水施設にアクセスできないこと等が健康状況に大きな影響を与えていることがわかる。社会経済状況が芳しくない高齢者は、健康上の問題を抱える可能性が高い。

これらに加えて、女性でしかも身寄りがない場合には健康上の問題を抱えやすいと考えられる。「社会の質」をどう改善するのかが大きな課題となる。農村部における消費水準でみた貧困状況の改善、社会的包含(Social Inclusion)の欠如に加えて、健康状況が低いことも人口高齢化の問題の一側面として考えられる。

5)以上から導き出される政策的含意として、高齢者の長期的ケアのための制度インフラの整備に加え、農村経済自体を活性化させる投資を行い、持続性の高い是正措置を講じることが求められる。現在州レベルで提供されているヘルスケアサービスは非効率か或いは母子保健のようなリプロダクティブヘルスに特化しているケースが多いが、今後は老人医療とその財源措置、特に農村部での制度構築が全国的な政策課題となってこよう。

最後にちょっとだけ批判的コメント―――。

第1に、著者は人の移動の問題を分析枠組みから除外している。農村での高齢者向け長期ケアは確かに重要な課題であるが、一家庭の中で現役世代が爺さん婆さんのケアをやっている余裕がなくなってきている現状には、現役世代でも取り分け若年層の世代が都市に出稼ぎに出ていて実際のケアに参加できていないという状況も関係していると思う。こうした出稼ぎは所得移転の面では高齢者の生活改善に何らかのプラスの貢献はしている可能性があるが、実際の介護等のより対面型ケアの側面ではむしろマイナスの影響を家庭にもたらしているような気がする。そうした可能性について著者はどう捉えているのだろうか。アラム教授に会ったら聞いてみたい。

第2に、社会の質と高齢者の健康状況の関係は考えてみたら当たり前のことである。実際に農村部の高齢者やその家族から聴き取り調査をしたわけではないので僕にはまだよくわからないのだが、高齢者は長生きした方がいいと本人達は思っているのだろうか。或いはその家族はどう思っているのだろうか。高齢者は経験豊富で現役世代や次世代の子供達に示唆に富んだアドバイスや教育を行なうことができるコミュニティの資産であるというような見方はインドの農村部にはあるのだろうか。それはインド農村では一般的な考え方なのだろうか。こうした研究論文で高齢者の健康状況を取り上げて高齢者福祉向上施策の必要性を強調するにはある種の価値観が反映するものになるように思う。著者自身の価値観はどうなのだろうか。アラム教授に会ったら聞いてみたい。
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