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『インド農村金融論』 [読書日記]


インド農村金融論

インド農村金融論

  • 作者: 須田 敏彦
  • 出版社/メーカー: 日本評論社
  • 発売日: 2006/08
  • メディア: 単行本

内容(「MARC」データベースより)
経済自由化に向けて1991年から始まったインドの農村金融改革について、その理念と内容、そして現在までに達成された成果を整理した上で評価し、今後に残された課題を明らかにする。
また性懲りも無く難しそうな専門書に挑戦しています。とは申せども、今のところ序章、第1章、第5章、終章を重点的に読んで後は結論だけをさらっと拾うぐらいのつもりなので、割と早めにコメント載せられるかもしれません。(5月6日)

などと最初のひとことを述べてから既に2週間が経過してしまった。その間何で他の記事ばかりちゃんと載せてたのかと聞かれれば申し開きもできませんが、少し言い訳をさせてもらうとしたら、そもそもこの本を読もうと思った理由というのが2つあり、1つは既に掲載済みの「人間ATM」の記事を書く前の予習として読んでおこうと思ったことと、もう1つは5月11日締切でマイクロファイナンスについてレポートを書かなければいけなかったので、その際の参考文献として呼んでおこうと考えたからである。元々本書は僕がインドに赴任して来る前に日本で購入しておきながらその後読まずに書棚に積んでおいたもので、死蔵を回避するためにも目を通しておきたいと思ってはいたのであった。
そんな前置きはさておいて、この本を読んでみて幾つか学んだ点について述べてみたいと思う。

第一に、独立後のインドの大きな課題は農村振興にあり、そのために政府は農村協同組合を農村発展の牽引車と位置付けられていたが、こうした信用農協は農村貯蓄の動員には失敗し、自立した農村金融市場の発展という期待された成果をあげられなかった。また、農家負債に占める信用農協からの借入れの割合も大きくはなく、農家は必要資金の大部分を高利貸し等のインフォーマルな金融市場に頼らざるを得なかった。1960年代末からインド政府は主要商業銀行の国有化を進めて農村支店の開設と農業・農村への貸出しを商業銀行に義務付けたが、こうした政策をもってしても、商業銀行と信用農協のサービスは農村の中流から上流世帯に偏りがちで、農村貧困層に資金を十分に供給できないことが判明した。このため、政府は、州政府や商業銀行と共同出資して農村貧困層に融資を行なう新たな特殊金融機関「地域農村銀行」を1975年頃から設立開始し、さらに世銀の融資プログラムの一環で総合農村開発プログラム(IRDP)が1978年から開始されて貧困層をターゲットとした政策融資が拡大していった。

第二に、このように農村金融システムが政治問題化されて肥大を続けていく中で、複雑化した農村金融システム全体を管理して資金供給できる公的専門金融機関の設立が求められるようになってきた。こうした背景から1982年には全国農業農村開発銀行(NABARD)が設立され、各種農村金融機関に農業貸付の原資を供給(リファイナンス)する機能を担うことになった。このNABARDが担っているこうしたリファイナンスは、今も政策的な資金を傘下の農村金融機関や州政府等に流すことであるが、農村金融資金の政策依存度が高いということは、自立的な金融システムの発展の妨げになっているだけでなく、実体経済の裏づけのない貨幣増刷によってインフレを招き、経済発展の基盤となるマクロ経済の安定に多大な影響を与えかねない。そして、政策的に供給された農村信用の返済率は極めて低く、供給された資金が循環していかない。取り分け、IRDPの返済率は、返済減免を期待した意図的返済回避が横行して抜きん出て低い(1996年時点で41%)。

第三に、こうしたインド政府の取組みにも関わらず、インフォーマル金融部門への依存度は依然として高い。2003年に行なわれた農民世帯対象の調査でも借入残高の40%以上はインフォーマル金融(農民・職業的金貸し、商人、親戚・友人、医師・弁護士等)が占めている。しかも、所得の低い貧困層ほどインフォーマル金融への依存度が高く、取り分け高利貸しの残存はインド農村部の貧困を固定化・悪化させる一因となっている。

第四に、問題の多かったIRDPが1990年代になって貧困層、取り分け女性を対象とするSHGリンケージプログラム(Self Help Group Linkage Programme)が成功を収め始める。SHGプログラムとは、主に貧しい女性を自助グループ(SHG)として組織し銀行等がそれに対して預金や貸出等の金融サービスを提供するものであり、融資返済率は95%以上を実現し、しかも2005年3月末までに推定で2425万世帯の貧困層がフォーマル金融機関から融資を受けられるようになるまでに急速に事業を拡大している。貧困対策のための金融政策は、その中心が補助金付きのIRDPから補助金の付かないSHGプログラムに移ってきている。また、SHGプログラムは、高い返済率という金融システムの健全性だけではなく、低利の信用供与による貧困者の生活安定化と所得向上、女性の地位向上、貯蓄動員の成功といった成果もあげている。

ここまで書いただけでも随分なスペースを既に取ってしまっているが、実は本書で一番参考になったのは第5章の「インドにおけるマイクロファイナンスの新展開」の記述である。特に、バングラデシュのグラミン銀行とSHGプログラムの比較をやっているのは勉強になった。例えば、グラミン銀行モデルが生産的投資のために融資を優先した金融サービスを提供しているのに対して、SHGは貯蓄を優先し借入金の使途はメンバーの自由な決定に委ねていて、実際には消費目的の利用も多いといったこと、SHGプログラムでは金融機関の管理費用が低く抑えられており、NABARDから提供される原資の利子率とSHGへの貸出金利の間に5.5%の利鞘があるため、金融機関にとっては収益を生む商品と成りえること等が挙げられている。

また、SHGプログラムは参加した貧困農民にどのようなインパクトを与えたのかについての記述もわかりやすい。貧困層への到達度、借入条件の改善、借入金の使途の変化等に加え、著者は、SHGが持続的かつ加速度的にメンバー、特に貧困線以下のメンバーの所得を増加させる効果があること、加入後には貯蓄額が平均で2倍強に増加したこと、加入後にはほぼ全世帯が貯蓄を行なっていること、SHG加入によってメンバー(その殆どが女性)の自信や家庭における地位が高まったこと、他者とのコミュニケーションが高まったこと、社会的問題に対しても積極的に関われるようになったことなどを効果として挙げている。

著者はSHGが成功した要因として、農村住民にとって最も強いニーズである、「融資をタイムリーに低利で受けられること」「安全な貯蓄手段」を満たすことができたからであると述べている。マイクロファイナンスの議論をしていると、いつの間にか融資を前提として話をしている自分に戸惑うことが多いが、インドのSHGを見ていると、貯蓄も同様に必要なのではないかという気がする。
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