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『不機嫌な職場』 [読書日記]

不機嫌な職場~なぜ社員同士で協力できないのか (講談社現代新書 1926)

不機嫌な職場~なぜ社員同士で協力できないのか (講談社現代新書 1926)

  • 作者: 河合 太介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/01/18
  • メディア: 新書
バンコクの紀伊国屋書店で偶然見つけて、日本で買うよりもかなり高かったけれど、いてもたってもいられなくてつい買ってしまった。でも、この1週間は非常に忙しかったのでたとえ新書といえども時間を作って読み切るというわけにもいかなかった。昨日ようやく読み切った。

本書を購入した動機はそのものズバリ、ギスギスした職場に同様の問題意識を抱いていたからである。それでも僕は中間管理職の身だから、今の職場で情報の疎通がよろしくないという点は支社長に申し上げ、それなりの工夫を始めようとしていた矢先でもあった。むしろそれ以上に気になったのは、今の職場に転勤してくる以前に務めていた部署のことであった。僕自身が潰されかけていたのに職場の同僚は心配はしてくれていたけど手伝ってはくれなかったし、逆に潰されかけていた同僚に僕自身も救いの手を差し伸べることができなかった。異動してから1年近くが経つが、当時を振り返って今一度冷静に分析してみたいと思ったのが大きな動機だった。
講談社現代新書は表紙はとてもシンプルだが、その分販促のためのタスキに相当のスペースを割いているのが特徴的である。本書の場合、そこには「こんな職場は要注意!!」として、幾つかのケースが挙げられている。
■新しいことに参加してくれない。
■熱意を込めて書いた提案メールに反応がない、あるいは冷ややかな反応ばかり返ってくる。
何回頼んでも誰もきちんと対応してくれない。
■メールなどで一方的な指示を出してきて、こちらの対応が遅いとキレる。
(中略)
■困っている人がいても、「手伝おうか」の一言がない。
■「おはよう」等の挨拶がなく、皆淡々と仕事を始める。
■イライラした空気が職場に蔓延し、会話がない。
■隣の席にいる人とも、やりとりはメールのみ。
実はここに挙げたことは、僕が以前いた職場にはどれも当てはまることだった。今の職場もそういうところは多少あるが、心の健康を蝕むリスクが著しく大きかったという点では昔の方がアブナイ職場だったというのは間違いない。

著者は組織の力というのは「個人の力」と「個人間のつながり」の掛け算であるとの認識に立ち、1990年代以降の成果主義の導入によって、「個人の力」は強化されていったが、逆にそれが仕事の専門化、深化を強め、逆に個人の成果に関係がない、或いは関係が薄い業務はどんどん整理されていき、それが「個人間のつながり」を弱めてしまったと指摘する。「個人間のつながりの弱体化は、高業績者、低業績者にかかわらず、非協力的な組織風土の中で孤立感を社員に抱かせ、心を感想させた。また、つらい状況、困難な状況に直面しても、精神的・物理的支援者に恵まれないため、1人で追い込まれることになった」(p.146)という指摘に対して、反論できる人は少ないであろう。

本書はなぜそうなったのかを分析し、さらに社員が生き生きと働ける職場の雰囲気作りに成功している企業の事例を幾つか取り上げ、そこでの実践事例から今後我々が取るべき問題解決の方法論の提示を試みている。こういう切り口で組織の分析を行なった本はあまり知らないが、結論の部分で述べられていることは至極当たり前のことが書かれているように思う。当たり前のことがちゃんとなされていないのだからそれを「当たり前のこと」と言うのは著者に対して失礼かもしれない。おそらく、職場において問題意識の共有を図ることができないと、こういう当たり前の仕掛け作りには繋がっていかないのだろうなという気がする。従って、問題意識の共有に向けた働きかけが先ずはできることだったのだろうなと当時のことを振り返ってみると思う。

「「自分の仕事」でなく「自分」を見て」というのは本書のメッセージの1つであるが、同じようなことを昔ブログで書いたことがあるなと思った。当時はこのことを自分の上司に対して思っていたのだが、部下を抱える身としては、同じことを部下に対してちゃんと実践しているのかが問われると改めて考え直した。

1つだけ不満な点を述べておきたい。それは本書で紹介されている事例である。こうした遊び的要素を加えた「みんなで協力し合う組織作り」はどれも非常に魅力的だと思うが、どうも1つ共通点があるように感じた。それは、社員の年齢構成がある程度固まっていて同質性が元々高いのではないかという点である。こうした盛り上がり方ができるのは、元々年齢層が近くて結集しやすい素地があったという点も大きいと思うので、支社長から最年少社員まで父親と子供ぐらいの開きがある組織、社長が80代の高齢者であるような組織で同じようなことをやろうとしてもそう簡単にはできないのではないかという気もした。
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kobakoba

成果主義 というのは 私はコンサルタントがどう言い繕うと 人件費抑制制度だと思います そうでなくてはバブル崩壊後 中高年の首切りが終わった後に まるで競うがごとくこの制度が取り入れられた理由が分かりません きっと人事コンサルタントが ”この制度を取り入れると人件費がかなり抑制できますよ” と経営者に囁いたに違いないと思います 成果主義の最大の課題は ”いかに公平な成果評価をするか” ですが 日本人は公平な評価ができない民族なんです だから社員から不平不満が出るのは当たり前なんです どう評価するか という訓練を満足にせずに 人件費抑制だけのために制度を導入するから 社員間がギクシャクするのだと思います いずれにせよ 日本人には馴染まない制度であることは確かです
by kobakoba (2008-04-14 08:37) 

のんべいキャサリン

よくあることですね。
とりあえず批判方も昨今多いような。
ブログでないのですが、どこかで私も書いたところです。

by のんべいキャサリン (2008-04-14 16:32) 

目黒のさんま

「不機嫌な職場」を読んでみたわけではないので、朝日新聞の書評に対してのコメントを中心に、ブログでは書いています。

はっきり言ってしまうと、以下の一文は「結果」を言っているだけに過ぎない。
☆☆☆☆
成果主義の導入によって、「個人の力」は強化されていったが、逆にそれが仕事の専門化、深化を強め、逆に個人の成果に関係がない、或いは関係が薄い業務はどんどん整理されていき、それが「個人間のつながり」を弱めてしまったと指摘する
☆☆☆☆

日本企業の成果主義導入の本質は「kobako」さんのいうように、単なる賃金抑制策でありません。また、成果主義導入の結果、貧乏くじの仕事をやらされたら最後、そんな会社なんてとっとと逃げ出した方がいいという状況となっているのも事実です。

近視眼的事業にまい進した結果、基礎研究や商品開発をおろそかにしてしまい、気がついたら技術のない会社に落ちぶれてしまったメーカーもどきに…みたいな例は日本企業に実在します。

本にするには、成功例の企業は協力的になる反面、失敗例の企業は破綻でもしない限りなかなか表に出てこないので、この点には気をつけないといけませんね。
by 目黒のさんま (2008-04-14 22:47) 

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