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減らすなら賢く使えODA [インド]

僕達がバンコクでガス抜き休暇をしている間に聞いた若干古い記事であるが、一言コメントしたいと思っていたので、取り上げてみたいと思う。
ODA日本5位に転落…07年30%減 改革進まず
4月4日、毎日新聞

 経済協力開発機構(OECD)は4日、07年の各国の政府開発援助(ODA)の実績を発表し、日本は前年比30.1%減の76.9億ドル(約7800億円)で、06年の3位から5位に順位を下げた。7月の北海道洞爺湖サミットで開発問題が主要議題の一つとなる見通しのなか、議長国として指導力を発揮できるか疑問符が付く結果となった。
 OECDの開発援助委員会(DAC)が評価したもので、ODA総額から借款の返済を差し引いたり、債務帳消し分を加算するなどして算出される。
 日本は91~00年の10年間は連続で首位だったが、01年に米国に首位の座を明け渡し、06年には英国にも抜かれ3位に。07年はドイツ、フランスにも抜かれた。日本は05~06年に実施していたイラクやナイジェリア対象の大規模な債務免除がなくなったことが下落の主な要因という。
 政府は05年の英国グレンイーグルズ・サミットで、5年間でODAを100億ドル積み増すことを公約したが、06年には財政悪化を理由にODA予算を5年間、前年度比で2~4%削減することを閣議決定した。同年、ODAの歳出改革を進めながら内容を充実させることを目指し、首相官邸にODA戦略を立案するための「海外経済協力会議」を設置したが、目立った成果は上がっていない。
 福田康夫首相は「平和協力国家」を掲げ、貧困解消や保健衛生改善などの分野で途上国支援を拡充すると表明している。「5位転落」が国際的な信用の低下につながる前に、抜本的な戦略の見直しが急務となりそうだ。
 G8開発相会合のため来日中のアンヘル・グリアOECD事務総長は4日、東京都内で記者会見し「日本政府は順位にこだわる必要はないが、日本の開発援助の削減傾向には懸念を持っている」と述べた。
この記事について、インドへの経済協力の視点から少し考えてみたいと思う。
記事では2007年度の落ち込みは幾つかの特殊事情があるような説明がされているが、実はもっと重要なのは構造的な要因ではないかと僕は思っている。円借款の返済金がどんどん戻ってきているのに、新規の円借款がなかなか伸びない。ジュビリー2000運動で盛り上がった債務帳消しへの動きを考えれば、折角身軽になったのにまた借金を安易に積み重ねるような行為には途上国政府も慎重になるのではないかと思う。だから円借款の新規供与は進みにくい。とすれば、過去の円借款の戻りが多くて、日本から途上国に流れる公的資金がネットで見て縮小してくるのはもっと構造的な問題である。

だから、インドのような今後経済成長の余地が大きい国にはもっともっと円借款を供与して途上国に流れる公的援助額を増やしたらいいという考え方をされる人もいるだろう。インドはまだまだ経済インフラの整備が進んでいない。やることはいっぱいある。だから、少しでも融資のディスバースを促進して、円借款悪人説を抑え込みたいというのもわからないではない。

でも、本当にそれだけでいいのだろうか。ODAは融資ではなく贈与(グラント)で行なおうというのは国際的な潮流だと思うのに、なぜインド向けのODAは融資ばかりを積み上げる必要があるのだろうか。

インドに来て現地のNGOの方々と交流させていただく中で、非常によく耳にした言葉がある。それは、「我々は外国からの資金は要らない」というものである。これだけ大きな国土の中で貧困住民が4億人もいる国で、援助は要らないということはないだろうと思うのだが、ここから考えられることは幾つかある。

第一に、インドには力をつけているNGOが非常に多いということ。賢く使ってくれるところには手厚く資金を投入しようというのが世界の潮流なのだから、賢く使える主体が政府でなく非政府のNGOや企業だとしたらそれらを通じて援助を行なうべきだし、その場合はインドのNGOを通じた草の根支援は最初に試みられるべきだ。ある識者によれば、50万円であっても必要な時に迅速に出せればものすごいレバレッジの効いた援助になるという。でっかい構造物を作るのに大きなカネを動員するのも結構だが、逆に必要な小額資金を最も適切なタイミングで迅速に出せる贈与スキームがあったらいいのにとも思う。

第二に、実際にNGOとかマイクロファイナンス金融機関を通じて流れる民間資金は大きいが、よくよく見るとボトルネックになっていることがあるということ。活動助成を行なっているドナーや民間投資家が優れた実施体制と実績を持つNGOやマイクロファイナンス金融機関を特定するにはそれなりのコストもかかる。情報の非対称性があって資金の過小供給に陥っているのである(つまり、資金が足りているというのは、それだけ助成申請を挙げてきている団体に対して申請団体の実施能力が基準に達していなくて助成件数を絞り込んでいることの裏返しでもある)。そこで、NGOやマイクロファイナンス機関の実施能力を評価する独立格付機関の設置や実施能力が基準に達していない未熟なNGOやマイクロファイナンス機関の能力強化は、この業界では大きな課題となっている。こうした公共財的機能の設立は誰が見ても必要であることは間違いないのだが、今の日本のODAにこうした取組みに対して資金拠出する仕組みがない。

第三に、インフラにしても農業開発にしても、日本のやり方はプロジェクト型であり、プロジェクトの件数の積み上げで援助をしているが、本当に生活に窮している人々に直接届く援助のやり方をしていないということである。インドでいくらインフラ整備を支援したからといって、貧しい子供達が教育を受ける機会を拡大したり、必要な時に負担可能な費用負担で医療サービスが受けられるようになるわけではない。支援対象を直接支援するようなプログラムとか、裨益対象者が本当に裨益するためのシステム作り(法整備、行政制度、公務員制度改革、医療保険制度等等)とかはあまりやられていない。本当に貧困解消や保健衛生改善などの分野で途上国支援を拡充するというのであれば、直接こうした効果が得られる援助の使い方が考えられるべきだと思う。案件積み上げでものが見られているから、制度構築の議論への参画に必要な調査や研究があまり顧みられていないというのも気になる。

要するに、伝統的な大型円借款案件の積み上げだけでインドを見るのは不十分ではないかということである。円借款の返済金が大きいからその分新規円借款を積み上げなければいけないというだけではなく、返済金を贈与に振り向けてもっとフレキシブルに使えるような仕組みをいろいろと作っていったらいいと思う。大国インドですらいつまでも円借款を借りてくれる国でいられるわけではない。援助のやり方はもっと工夫しないといけない。
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