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『最前線のリーダーシップ』(その2) [読書日記]


Leadership on the Line: Staying Alive Through the Dangers of Leading

Leadership on the Line: Staying Alive Through the Dangers of Leading

  • 作者: Ronald A. Heifetz
  • 出版社/メーカー: Harvard Business School Pr
  • 発売日: 2002/04/18
  • メディア: ハードカバー

原書の方も表紙を紹介しておきたい。

さて、今週は序盤でなかなか時間が思うように作れなかったので、思いの外読むのに時間がかかってしまった。支社長の代わりに外部の会議に出た他、来訪者の応対もした。その上、マイカーのメンテナンスをトヨタの現地ディーラーのワークショップでアポを取りそれにも出向く必要があり、時間のやり繰りが非常に難しかったからだ。

支社長の代わりにいろいろとやった仕事があるが、それで空いた時間でその支社長が何をやっていたのかが問われるところである。内輪のことなので詳しくは書かないが、前回、本書の前半部分の紹介の際に若干言及した通りの「マイクロ・マネジメント」だったのではないかと思う。支社長には支社長の役割、次席には次席の役割、平社員には平社員の役割というものがあり、1つの課題に取り組むにしてもこれら3階層の人々は同じ目線、同じ言語で語る必要はないと僕は信じているが、中には平社員がやれば済むようなことを支社長が同じ目線でやっていたり(その分、平社員は楽できるでしょうな)、平社員と次席である程度練り上げた仕事を支社長が「てにおは」を直すようなしょうもないことをやっていたりする(次席の立場は丸潰れでしょうな)。こういうことに時間を割いてもらうために僕は支社長の代理を務めたわけじゃないんですけど…。組織の大きな変革が求められている今、本書でいう技術的な問題の解決にリーダーが時間を割き過ぎるのは組織にとっては不幸ではないかと改めて思う。

さて、本書の紹介に戻ろう。第1部から第2部にかけてはそれなりに体系立って書かれていて面白いなと思ったが、第3部はリーダーシップそのものというよりも人としての生き方の話になってきていて、読んでいて全体との関連性を考えるのが難しいなと感じた。それと、第2部までの各章と比べて翻訳の質も落ちたのではないかと思えるところもあった。(元々第3部は観念論的記述が多くて翻訳自体は相当しにくかったのではないかと同情はする。)

第2部の中では、第6章「当事者に作業を投げ返す」というのは面白かった。1994年の米国NBAイースタン・カンファレンス決勝におけるシカゴ・ブルズのフィル・ジャクソン監督のハーフタイムでの言動というのが事例として扱われている。スコッティ・ピッペンの造反劇のために劣勢でハーフタイムを迎えたチームにジャクソン監督が「お前らでなんとかしろ」と言い放ったという逸話である。当事者である選手達に、問題を自分達のものとして認識させ、解決策を見出させて実践させたというものである。

能力の有無はともかくとして、僕も中間管理職の端くれであり、部下として抱えている現地採用のスタッフから、「今の当社の運営体制にはこんな問題があります。でも歴代の次席や支社長は抜本解決に向けた取組みを全くしてくれていません。」とクレームを受けることが度々ある。前任者から引継ぎも受けておらず、初めて聞かされる話が多いのだが、そういうとまるで「引継ぎを受けていないあなたが悪い。だからあなたこそが何とかしてくれ」としか聞こえないクレームである。そうしたクレームを次々と言ってくるスタッフに対して、僕もひとこと言うようにし始めた―――「それであなたはどういう解決策が望ましいと思っているの?」問題の分析を1からやり直しているような暇は僕にもないから、それを問題だと思っている人間に先ず分析させて、解決策を提案させる、選択肢が複数ある時には、それぞれのメリット・デメリットを比較させる、そうした作業をスタッフにやらせるようにし始めたのである。また、五月雨式に次々と思いついたように問題を挙げて来られるのに対しては、こう言った―――「次から次へと持ってこられるのもかなわないので、他のスタッフとも相談して、今の当社が抱えている問題を全て挙げてみて欲しい。」そう言うと、スタッフはいったん要求を引っ込める。当然僕は彼らが解決策を提案してきてくれるのを待っているし、持ってこればそれを支持するつもりではいるが、そうした訓練をこれまで受けていないスタッフがそこまでできるのかどうかはこれからの課題だ。

赴任7ヶ月の僕と比べて、10年以上支社で働いているスタッフの方が現場のことはよく知っている。だから、次から次へと入れ替わる管理職ではなく、問題解決は自分達で考えて欲しい―――こうした対応は、スタッフが問題の所在を僕や僕の前任者達の管理能力にすり替えてしまうリスクを防ぎ、かつ、「どのようにして自分の部下をより高いレベルで仕事ができるよう育て上げるか」という、僕自身が適応を必要とする問題に対する対処法ともなり得るのではないかと思う。

もう1つの実践に移すべき本書からの学びは、第9章「自分自身をつなぎ止める」にある。この章の趣旨は様々な危険が伴うリーダーシップにそれでも担おうと取り組む前向きな姿勢を自分自身に維持させるには、①相談役と協力者を区別した上で確保すること、②自省と再生を促す場として自分自身の聖域を持つことが重要とされている。

よく、組織に変革を促すには自分の価値観やビジョンに賛同して積極的に動いてくれる協力者(支持者或いは「champion」ともいう)を確保できるかどうかにかかっていると言われる。

協力者は、あなたと大部分の価値観、あるいは少なくとも戦略を共有でき、何らかの組織や派閥の境界を越えられる。境界を越えた関係であるため、彼らはほかに敬意を払うべき別の絆もあり、そのためにいつもあなたに忠実でいるわけにはいかない。だが逆に、協力者が大変役に立つ点は、むしろ彼らが他の派閥との関係を持っていることにある。そのために競合する利益や衝突する見解、そしてあなたが把握し切れていない状況を正しく伝えてくれる。(中略)さらに強力な協力者であれば、彼らの関係者をも巻き込み、協力体制を強化してくれる。(p.282)

他方で、相談役というのは自分の組織とは別のところにいる人物である。そして、著者は、自分自身を奮い立たせてリーダーシップに向かわせるためには、協力者と相談役の両方が必要だという。

相談役は、協力者にはできないことをしてくれる。まず彼らは、よく考え尽くされていない、考えがまとまる前の、心の中にあるもやもやした思いの全てを吐き出させてくれる。感情や言葉は、ばらばらに混乱状態のまま出てくるが、いったんすべての混乱が外に出されると、それを組み立て直せるし、必要の無いものと価値のあるものを分けやすくなる。(中略)
相談役にあなたの話を聞いてくれるようにお願いすると、問題に対してよりも、あなた自身のことを気にかけてくれる。(中略)
相談役は、他の人からは聞きたくないこと、聞けないことを言ってくれる人でなければならない。相談役は、自分の職場に暴露される心配をせずに、何でも打ち明けられる相手でなければならない。(中略)相談役には評判や仕事への影響を心配せずに、感情を露わにすることができる。また、あなたは、相談役に対しては情報を管理する必要はなく、考えたことをそのまま伝えることができる。(pp.282-283)

この箇所を読みながら、僕は今回のインド赴任に妻が同行してくれていることの有難さを改めて感じた。今の職場にも不満はあるが、それでもなんとかしようと立ち向かう気力を与えてくれているのは、妻を含めて家族が一緒にいてくれるお陰であり、特に、帰宅すると職場での出来事とそこで何を感じたのか、僕の言葉に耳を傾けてくれる妻がいてくれたお陰であると思う。さらに付け加えれば、僕はブログでは匿名としているが、ミクシィでは友人限定で別の日記を書いている。そこにコメントをくれる人々は、皆離れた場所にいるけれど、時に暖かい言葉をかけてくれ、時には厳しい忠告をしてくれる有難い存在でもあると思う。確かに、「協力者」と「相談役」は両方必要だし、そして同じ人ではない。

最後にもう1つの「聖域」の確保である。

ストレスがたまり、時間に追われると、人は往々にして、聖域の源になるものを真っ先にあきらめてしまう。聖域を持つことを贅沢だと思ってしまうのだ。それが実はいちばん必要であるにもかかわらず、人は職場でほんの少しの余分な時間を確保するために、ジムに行ったり近所を散策したりする時間をあきらめる。しかし明らかに、自己を確認し健康を保つための場を生活のなかで最も必要とするのは、最も困難な仕事をしているときなのだ。(p.288)

本書を読み切った後、この記事を書く前に僕がやった最初の取り組みは、朝早く起きてジョギング・シューズを履き、竹刀を持って近所の公園に行くことだった。これが自分にとっての聖域と言えるのかどうかはわからないが、インド人との対外的な仕事の進め方よりも職場の運営で感じるストレスがこの7ヶ月でピークに達していて職場にいると胸の痛みすら感じている今の僕にとっては、こんなことからでも何かを始めることが必要なのではないかと思わずにはおれない。
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