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仕事ができる人は残業しない? [読書日記]

なぜ、仕事ができる人は残業をしないのか?

なぜ、仕事ができる人は残業をしないのか?

  • 作者: 夏川 賀央
  • 出版社/メーカー: ソフトバンク クリエイティブ
  • 発売日: 2007/03/27
  • メディア: 単行本

出版社 / 著者からの内容紹介
できる人の「仕事感覚」に迫る!スキル、ノウハウ、テクニックをいくら身につけても、「仕事ができる人」になれない……それは、「仕事に対する感覚」が昔のままだからです! 「できる人」の仕事感覚に初めて迫る本書を読めば、あなたの仕事能力は劇的にレベルアップすることでしょう。

タイトルが刺激的だったので衝動買いに近い形で購入した。初版から半年で第3刷まで行っているのだからそれなりに売れている本だろうと思う。年末年始のお休みの間に、自分の仕事のスタイルを振り返ってみるためのものさしとして、この類の本は読んでみると面白いと思う。

正直なところ、本書にタイトルには若干騙された気がしている。仕事ができる人は残業をやらないというのは本書の中で僅かに第1章で書かれているのみであり、後述するが文字通り「残業をやらない」というのとは少し趣が異なる。

「はじめに」で書かれているが、著者の観察によると、仕事ができる人というのは以下のような傾向があるという。
  1. 残業をしない。
  2. 上司の言うことを「話半分」しか聞かない。
  3. メールの返信が早い。
  4. 異性に優しい。
  5. 帰り途中で「寄り道」をする。
  6. 交通費請求をまめにする。
  7. 案外と悪口を言う。
  8. スパッと会社を辞める。

元々の問題意識が「どのようにしたら残業をせずに切り上げられるのか」というところにある僕としては、上記の1に対する期待が大きかったわけだが、著者の結論のように、「(残業に充てる)時間を「自分のもの」と考えているか、「拘束されている時間」と考えるか」(p.27)というところで、仕事ができる人はオフィスで残業をやっていない時間でも自分がこれをやるのが「自分の仕事」に有利だと思えばそれをやっているのだというのであれば、残業を今するのが自分の仕事に有利だと思えば残業をやっているのが仕事ができる人だということになる。これでは、残業を減らすにはどうしたらいいのかという問題意識に直接答えを提示するものではない。その意味では、物足りなさが残る本だと思う。

著者の趣旨には賛成である。就業時間は常に意識して、その中でなんとか作業を終わらせるべく最善の努力はするべきであると思う。無駄話をしている余裕などあるのがおかしいし、それがためにダラダラと残業をやっている者が残業手当など受け取るべきではない。そう思っているので、無駄口が多い社員には苛立ちすら感じる。しかし、実際問題として残業をしないと終えられない作業が慢性的に多い場合はどうするのだろうか。長期的に見たら夕方にオフィスを離れて地域の活動に参加してみるとか今だったらインド人の知り合いと食事を共にするとか、そうする方が自分の仕事に深みをもたらしてくれることはわかっている。だが、短期的には本社から期限が切られている作業がやたらと多く、どうしてもそうした作業のためのデスクワークに割く時間が長くならざるを得ないのである。そして往々にしてそういう作業は自分のコントロールが効かないところから指示が来る。

働く時間を自分の成長のためだと割り切れれば残業も苦にならない、それ以外のことに充てる時間も苦にならないというのは、頭では理解できるものの、あまり満足のいく回答ではないように思う。今年は僕も研究論文を書こうと目下のところ考えているが、そのための時間を作るには、週末だけではなく平日も早めに職場を離れる工夫が必要だと思っている。これとて長期的には自分の仕事に絶対役立つと思ってやろうとしていることではあるが、短期的にはやらねばならないデスクワークがかなり多いのである。

他方で、残る7つの類型については、それほど異論があるところではない。「5.帰路の寄り道」なんかは、僕が先に述べた知人との会食や研究論文制作等と同じロジックで書かれている。「2.上司の話を適当に聞き流す」というのも、全ての作業を自分のコントロール下でやろうとしたら1つのテクニックだろうと思う。但し、読んでいて感じるのは、これらをやるための前提条件は、①(前述したが)上司が「まあ、こいつだったら仕方がないか」と言って苦笑いで許してくれる人であること、②そのしわ寄せが当然職場の同僚にも行く筈であるが、自分が残業をしないことで他の社員の負担が増えないこと、或いは同僚が「あの人だったら仕方がないか」と苦笑いで許してくれること、③本社の官房系から来る作業の指示が、多少の手抜きがあっても許される環境にあること、等である。僕は以前残業を殆どやらない部下を抱えていたことがあった。その部下の場合は仕事の能率が高いから残業不要だったのではなく、やるべきことを全くやらずに帰っていたのでとても苦笑いで許せるようなものではなかった。結果として、残った同僚と僕が連日連夜遅くまで残業をやり、休日も出勤するようなはめに陥った。会社の業績アップに長期的に貢献してくれているかといえば、異動後の新しい職場でも彼は同じ振舞いでその部署の業績の低迷に貢献していると最近耳にした。

結局、自分が自身の成長を中心に考えて行動を取るのに寛容な職場環境であるかどうかが非常に大きいように思える。自分のものさしと会社のものさしは必ずしも一緒ではないというところが著者の最大の論点であると僕は思ったが、結局のところ、会社を自分のものさしに合わせさせる工夫についてはあまり本書では触れられていないように思う。但し、「7.案外と悪口を言う」というようにネガティブ思考を肯定しているところについては、僕自身もそうであるから(だから書評もネガティブ・トーン)好感を持ちながら読ませていただいた。

最後に少し論理的に矛盾も感じている点を述べておきたい。第一に、残業を早く切り上げたいなら、メールの返事をいちいちしている余裕はないと思うのだが、もしメールの読み方を効率的にできる方法があるのならそれも紹介して欲しい。第二に、長期的に自分自身の成長を中心課題に据えて行動選択するというのを容認した結果がその社員が案外にスパッと会社を辞められるというのでは、そうした行動に寛容であろうとしても職場としてはやはり難しいのではないかという気がする。職場を早めに抜けて異業種の方々との交流の時間に充てるとか、研究活動に充てるとか、ボランティア活動に充てるとか、いろいろやろうとしても、それが今いる会社での自分の業績アップに繋がるからやっているのか、或いは他の職場に移っても生きていけるようになるからやっているのか、どちらかなんて、やっている自分ですらよくわからない。


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まつ

まだ学生の身のボクとしては、そもそも残業とは何者なのか、という問いから始まります。何よりも残業でプライベートな時間が持てなくなることが辛いです。努力で解決できるなら頑張りたいと思っています。そんなボクは甘いでしょうか。
by まつ (2008-01-05 19:16) 

俗に言う「良い人」ほど世の中生き難いカも知れませんね。
適当な息抜きが出来、適当に商業的な人ほど「仕事が出来る人」かも?
by (2008-01-06 13:39) 

Sanchai

まつさん、コメントありがとうございます。
私も同感です。著者の論点は、プライベートでやっていることも自分のキャリアアップを考えてやっているのでしょう、だから残業をやるかプライベートで何かやるかというのは結局どちらをやるのが自分にとって得策かを考えて決めることであると言います。でも、プライベートでやっていることが自分のキャリアアップに繋がるかどうかなんて、私にはわかりません。私の場合は職場でのストレスをどう解消するかという問題意識でプライベートな時間を重視してますし、世の中の多くの方々もおそらくそうだろうと思います。
by Sanchai (2008-01-07 09:37) 

Sanchai

のんべいキャサリンさん、お久し振りです。コメントありがとうございました。
私も、なんだか周囲の目に対して鈍感でいられ、適当に仕事を流せる人が「仕事ができる人」なのかなと本書を読んで思いました。
by Sanchai (2008-01-07 09:39) 

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