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インドの金利上限規制 [インド]

ネタとして古くなってしまう前に書いておきたい記事がもう1つある。

これは7月25日付のHindustan Timesのp.21、ビジネス面のトップに掲載されていた記事である。タイトルは「金貸しは金利上限規制に直面する(Money lenders face cap on interest rates)」というものである。記事そのものはこのタイトルでグーグル検索すれば簡単に出てくるので細かい説明は省略したいと思うが、要点を簡単に言えば、①街金業者を全て登録制にすること、②これにより、正規の金融機関は事業免許を持つ街金業者を通じて与信を拡大することが可能であること、③貸出金利の上限は、商業銀行のベンチマーク金利に連動させること等を柱とする政策を、インドの中央銀行であるRBIが提言したとなっている。提言なのでまだ政策として導入されたわけではない。ただ、読んでいて気になる記事であった。なぜかというと、この政策は明らかにインドのマイクロファイナンス金融機関に影響を及ぼすからである。

今から1年ほど前の英エコノミスト紙に、「Microsharks」という記事が載ったことがある。インドのアーンドラプラデシュ州の話であるが、マイクロファイナンス機関の貸出顧客が2004年以降急激に増えて200万人にも達しようとしているが、これら機関の貸出が無秩序に行われており、融資残高ではなく融資元本額に対して利息計算がなされているケースが多く、借りた顧客が返済に苦しんでいるというものである。(この記事については僕は別のブログで紹介したことがあるので、そちらもご参照下さい。)この記事を読むと、マイクロクレジットと名をうった無秩序な貸出行為はかえって利用客を苦しめることになるので、貸金業者に何らかの行動原則を課すのは適切な政策であろうという気がする。

では、金利上限規制というのはどうだろうか。

貸出金利の上限を課すという政策は、普通に考えれば非常に不適切な政策であると考えられる。上限を課すということは金融市場のメカニズムに任せておくとそれ以上の高い金利になるということなのだが、需給関係がその金利水準で均衡しているということでもある。それを人為的に低く設定すると需要超過が確実に発生する。そうなると、借りたくても借りれない人が必ず出てくる。もっと高い金利を払ってもよいと考えているような人は、低い金利で借りれるなら残りの予算で信用割当を確実に受けられるようなレントシーキング行動を取るだろう。

マイクロファイナンス金融機関の貸出金利が高くなるのには理由がある。小口の貸出しを展開して顧客管理をやれば、人件費や事務管理費がかかって当たり前であり、その費用を回収するにはその分高い金利を貸出しにかけるしかない。こうした費用は金融機関の営業環境によっても大きく異なると考えられるので、商業銀行の貸出金利に一定率を上乗せした金利を上限に定めるような杓子定規の政策では、営業の持続性を確保できる金融機関と確保できない金融機関が出てくる。当然、持続性の確保が難しい金融機関ほど小口貸出に費用がかかっているということであり、往々にしてそうした金融機関が営業している地域というのは貧困層や低所得層の顧客が多い地域ということで、借りたい人が借りられない状況というのはそういうところで起きやすいような気がする。

貸出金利が高いのが問題だというのであれば、金利上限規制という規制政策ではなく、借り手の能力を高めて事業の収益性を上げることと、貸し手の金融機関側の営業環境を改善して彼らの事業の収益性を高めるのと2つのアプローチがあるが、具体的に必要とされるのは経済インフラの整備とか、ITを活用した経営革新とか、人材育成とか、どちらにも裨益する共通のアプローチであると考えられる。

そうしたことはこれまでのアジア諸国の経験からわかっている筈であるが、それでもインドが金利上限規制を設ける政策を検討しているというのはどういうことなのだろうか。今のところ、この記事が出た後で異論を唱えるような論調は見られないが、もう少し状況を見守っておきたいと思う。

*この記事を書くのに、以下の文献を参考にさせていただきました。
 Nimal A. Fernando, "Understanding and Dealing with High Interest Rates
 on Microcredit," Asian Development Bank, May 2006

 


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