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スティグリッツ入門(其の1) [読書日記]

世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す

世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す

  • 作者: ジョセフ・E. スティグリッツ
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2006/11
  • メディア: 単行本

内容(「BOOK」データベースより)
自由化と民営化を旗頭にしたグローバル化は、すべての国、すべての人に未會有の恩恵をもたらすはずだった。ところが今、われわれに訪れたのは、一握りの富める者のみがますます富んでいく、世界規模の格差社会だった。一体これはなぜなのか?ノーベル賞経済学者スティグリッツが、アメリカのエゴにゆがめられたグローバル化のからくりを暴き、すべての人々に利益をもたらす新システムを提言する。

今、第3章まで読み終わったところである。誤解があるといけないので最初に明確にしておきたいのは、筆者はグローバリゼーションを否定しているわけではないということである。反グローバリゼーションを掲げる市民運動は多いが、筆者が主張しているのは、グローバリゼーションがその期待される果実をあまねく世界の貧困層にまでもたらすためには一部の先進国のみを利するようなルールの決め方は変えられなければならないという点である。グローバリゼーション自体には罪はない、適切に管理されたグローバリゼーションは、途上国と先進国の双方に大きな利益をもたらすと述べている(p.30)。一方で、グローバリゼーションの進め方に問題があるという。「グローバル化の"形"を作ったのは政治だ。たいていの場合、ゲームのルールは先進工業国によって――また先進国内の特定の利益集団によって――決められており、当然、先進国の利益を増大させる"形"が採用されてきた」(p.37)(3月11日加筆)
 
もう1つの論点は、政治的なグローバリゼーションが経済的グローバリゼーションのペースに追いついていないという点である(p.412)。本書では、国際貿易や知的財産、気候変動、グローバル企業の行動規制など、グローバリゼーションの象徴ともいえる各方面でのルールセッティングという課題を頻繁に取り上げているが、国境をまたいだ課題に対して効果的に取り組める国際枠組みが今の世界には存在しないことが大きな問題であると指摘している。また、仮に枠組みを構築してその運用を図る際にはそれなりの財源確保も必要であるが、こうした財源措置をどうするのかという点にまで著者は踏み込み、来るべきドル大暴落に備えた新たな外貨準備のあり方にまで論を張り巡らせている。
 
主張されていることは少し経済学をかじったことのある読者ならとてもリーズナブルであることがご理解いただけるであろう。ある特定の政策導入によって、国内のどのグループ(例えば、生産者vs.消費者)が恩恵を受けるか、或いは損害を被るのか、外国のどのグループにどのように影響を及ぼすのか等の解説は、特に国際経済学や貿易論を勉強していると必ず出てくる分析枠組みである。でも、下手な理論経済学のテキストよりも、本書の方が事例が具体的であり、読みながら経済学的なものの考え方がある程度は学べるのではないかと思う。
 
スティグリッツ教授が以前に書かれた「Globalization and Its Discontent」も呼んだことがあるが、根底にある著者の主張は一貫して変わっていない。むしろ前著の論拠を具体的な最新事例をふんだんに盛り込んで改めて展開するのが目的ではないかとも考えられる。前著ではIMF批判が中心だったように記憶しているが、本日紹介した「Making Globalization Work」は、IMFというよりも、その背後で糸を引く米国政府と、政府の政策を強力なロビー活動で支援している米国内の生産者の利己的行動への批判を強めているように思う。
 
「世界で唯一の超大国となったアメリカは、経済のグローバル化を推し進めながら、同時に、経済のグローバル化を機能させるのに不可欠な、みずからの政治的基盤を弱体化させてきた。地球規模での民主主義化という口実のもと、アメリカは私益と私見を追求する行動に明け暮れ、世界の民主主義の土台にbひびを入れつづけたのだ。アメリカは事あるごとに人権を持ち出す一方で、みずからはさまざまな方法で人権を踏みにじり、国連の拷問等禁止条約の違反を指摘された際には、恥知らずにも、アメリカには拷問を行なう権利があると主張してみせた。世界には、"国際的な法の支配"にもとづくもっと公正なグローバル化を求める声がある。この声に応えるべき国はどこかと問われれば、答えはアメリカ合衆国以外にはあり得ない。」(pp.412-413)
 
本書は400頁以上ある大作なので読みきるのが大変だった。これだけ内容が濃いと一気読みというわけにはいかず、結局2週間以上かかってようやく読了した。特にこの週末だけで230頁を読み、数時間を費やした。それだけの時間投入をしても読む価値は十分ある1冊だと思う。
 
Making Globalization Work

Making Globalization Work

  • 作者: Joseph E. Stiglitz
  • 出版社/メーカー: W W Norton & Co Inc
  • 発売日: 2006/09
  • メディア: ハードカバー

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