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『日はまた昇る』 [読書日記]

ビル・エモット著(吉田利子訳)                                             『日はまた昇る―日本のこれからの15年』                                                 草思社、2006年2月


出版社/著者からの内容紹介
 英『エコノミスト』誌編集長による待望の「日本復活宣言」。
 著者は90年のベストセラー『日はまた沈む』でバブル崩壊を見事に予測した。以来15年間、日本は低迷を続けたが、著者はこの間に日本がゆっくりと、確実に変わったと指摘する。債務と生産能力と雇用における三つの過剰が解消し、制度改革は経済を効率化した。そして正規雇用と所得の回復も見えはじめている。ようやく「日は再び昇りはじめた」。さらに競争と効率化と生産性上昇を促せれば、少子高齢化社会でも年3パーセントの成長が可能だろう、日本という国は歩みの遅い着実なカメであり、足は速いが不安定なウサギである中国に将来的には勝つだろうと予測している。
 昨年より株価が上向き、景気回復が言われるが、まだ半信半疑という人も多い。本書はいま日本人が最も読みたい一冊であり、東アジア情勢の展望、政治の変化と靖国問題も論じられ、読みごたえがある。

この150㌻少々の本は、英エコノミスト誌の特別報告のような印象である。論点の扱い方が広く浅く、読後の印象があまり残らない。ピーター・タスカの著書と印象がよく似ている。今と言う時代をとりあえず一度まとめて考えてみようという時には分量からいっても最適の書だろう。また、時事問題を扱っているから、ちょっとタイミングを外すと読んでいて違和感が生じる。本書に出てくる民主党の党首はまだ前原誠司氏だし、ホリエモンに対する評価はポジティブではないがニュートラルくらいである。当然、ホリエモンは逮捕されてもいない。

こういう書は、何か切り口を決めておかないと評することが難しいので、とりあえず以下の3点を述べておきたい。

1.「中国について真に懸念しなければならないのは、現在の脅威ではない。恐ろしいほどのスピードで展開しようとしている未来のほうである。」(p.87)同感である。但し、著者は中国経済、中国の域内での政治的影響力、軍事支出などの増勢が東アジアの飲み込むという意味でこのように述べているが、あえてそれに加えるとすれば、中国の人口増加のスピードが鈍り、人口減少を迎える2020年代が視野に入ってくるにつれ、中国の賃金が上昇を始める。既に上昇の兆しが見られる。それがどのような意味を持つのか、考えてみる必要がある。

2.「所得の不平等の拡大という最近の(日本の)趨勢は今後も続くと思われる。1990年代の終わりまでは日本の労働者のトップ10%と最下層10%の給与格差はアメリカよりもずっと小さく、80年代以降に限れば英国よりも小さかった。おおざっぱに言って、日本のトップ10%の平均給与は最下層10%のそれの2.5倍だったが、アメリカではこれが4.5倍だったのである。ところが2000年以降、日本の給与格差は急激に大きくなり、いまではトップ10%の給与は最下層10%のそれの三倍になっている。」(p.138)ジニ係数で見ても上昇傾向にある日本の所得格差、OECDから指摘を受けても「高齢化の進行のせいだ」と抗弁した日本政府だが、給与所得だけを見ると格差の拡大が顕著だというのがよくわかる。

3.少子高齢化に関して、「困ったことに、労働力を増やそうという政策と人口の伸びを回復させようとする政策は、互いに矛盾する結果になりかねない。」(p.133)労働力人口の高齢化と減少に伴い、企業や政府はもっと多くの女性に働いてもらい、技能労働や責任ある地位に就いてもらおうとさらに努力する。すると、この努力が奏功すればするほど、出生率は低くなるに違いない。逆に、政府が女性にもっと沢山の子供を産んでもらおうとするなら、20代や30代の女性の労働力率は下がる。市民大学講座で少子高齢化の日本経済への影響について考える中で、女性の労働市場への参加促進に可能性を見るという先生の講義内容に感じた違和感はまさにこれで、労働力率が高まれば出生率はもっと下がるのではないかと思った。著者はまさにこの点を指摘している。

著者は日本の未来は明るいと言っているわけだが、それには幾つもの条件がついていることを、読者は決して見落としてはいけないと思う。


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