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秋津コミュニティの本① [読書日記]

岸裕司著、                                                                              『中高年パワーが学校とまちをつくる』                                       岩波書店、2005年10月

以前、「三鷹ネットワーク大学」のプレ講座で地域ケアの連続講座を取った際、僕達のような就労年齢層の父親の地域での役割がよく見えないという質問を講師の先生に投げかけたことがあった。その際、その先生から平日昼間は働いている父親も地域の活動に貢献することは可能であるとして、千葉県習志野市の秋津コミュニティの事例についてご紹介いただいた。秋津コミュニティというのは小学校を拠点とした学校児童と地域住民との交流と、地域住民同士の交流を活性化させて、地域づくりに繋げていった非常に先進的な試みである。

最近うちの近所でも話題になっている「コミュニティ・スクール」ともちょっと違う。コミュニティ・スクールは学校教育に地域の知恵を生かす試みで、一義的な受益者は児童・生徒であるが、秋津コミュニティの場合は受益者は児童・生徒だけではなく地域住民なのである。別の言い方をすれば、秋津コミュニティではうちの近所にある小学校とコミュニティ・センター(コミセン)をドッキングさせたような機能を小学校が担っている。

従って、放課後でも土日や祭日でも学校は地域に開放されている。学校の授業時間中も開放されている。地域住民はいつでも出入り自由だ。出入りしている大人が誰かは皆が知っている。従って、見知らぬ不審人物が侵入しようとしても、出入りしている大人が皆知り合いであれば1人だけ目立つわけで、それが児童・生徒に対する暴力や犯罪の抑止力としても機能している。

いずれ少し調べてみようかと思っていたら、岩波書店から今回紹介する本が出版されていた。聞くところによると、著者の岸氏はこれまでに秋津コミュニティを取り上げた本を3冊発表している。どれから読もうかと思った挙句、一番新しいのがいいと考えて、この本に手を出した。(いずれ他の本も紹介したい。)

読んでみて思ったのは、岸氏自身も把握できないほど秋津コミュニティの活動は増殖をしているということである。岸氏自身も平日は都内で会社を持つ身であり、平日昼間の地域の活動を十分把握されているわけではない。また、紹介されている活動はどれ1つをとっても非常に魅力的で地域の活性化や子供達の学びの促進に繋がっていることが窺い知れるのであるが、そろそろ体系的に秋津コミュニティのこれまでの経験を整理し、体系化や概念化を図ってみてはどうかということであった。最も新しい著書に手を出した最大の理由は、岸氏の著作にそれを期待したからであるが、どうもこの方は一線級の語り部ではあっても、この経験を他地域に広めるために包括的な分析レポートを纏められるような人ではなさそうだ。

会ったこともない人に対してこんなことを述べるのは非常に失礼ではあるが、折角歴史もある地域の活動を断片的な1つ1つの個別活動の事例を面白おかしく紹介するだけでは、全体像はなかなか掴めないし、他の地域の人々が本当に取り組めるものなのか、秋津だからできたことなのか、その辺の見極めが岸氏の著作からはなかなかできない。岸氏自身は非常に陽気で人を惹きつけるような話術もあるだろうし、なにしろ人の良いおじさんみたいだ。しかし、そんなくだけた調子で文章まで書かれると、ちょっと引く。誰かの良い取組みを紹介した後、「よくできました。パチパチパチ~ッ。」などと活字にするのはどうかと思う。(安田美沙子のアイフルのCMを思い出してしまったよ。)

僕は、この手の取組みには必ず活発に動かれたリーダーのような方がいらっしゃるのではないかという仮説をもっている。しかも、そのリーダーというのは、普通の町のおっさんで、何かの拍子に公共心や問題意識に目覚めて周辺の人々を巻き込み、大きな地域の活動へと発展していくのである。僕は何となくこの岸氏という人物自身が秋津コミュニティの形成にそれなりの大きな役割を果たしてきたのではないかと思っているのだが、彼がリーダーシップを発揮したというような記述は本書の中からはあまり読み取れない。他の2冊にもあたってみたいと思うが、この書き方をする人がそうした本質的な議論をこれまでにやってたかというとちょっと怪しい気もする。

個人的には、こうした元気がでるノンフィクションは非常に好きである。読んでて楽しくもなる。自分もこうした活動を自分の住む地域でできたらなぁと思う。(実際、少しずつではあるがやりつつあるけれど…)岸氏のような明るそうなキャラクターは絶対トクである。求心力がありそうだ。そうした地域の中核となりそうな人というのは、僕の住む地域にいるのだろうか。そういう目で地域を注意深く見てみたいと思う。


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