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タイへの援助 [仕事が好き]

少子高齢化の話の続きとして、4月の初頭に出席してみたタイ国別援助計画改定に関する公聴会についてご紹介しよう。

外務省は主要な被援助国について国別援助計画の策定ないし改定を定期的に行なっているが、今回は1月にタスクの案がまとまったタイについて公聴会が行なわれた。報告は、主査を務められた東大のS先生――僕が某大学の通信課程において「今さら何でキャッチアップ型経済発展か」と暴言を吐き、担当教官をいたくご立腹させてしまったいわくつきテキストの著者である。S先生は一昨年にJICAが実施した「タイ国別援助研究」研究会の座長を務められ、外務省の改定タスクの主査も、その縁で、この研究会の成果を実際のタイとの協力関係に生かさねばならないというお考えの下で受けられたそうだ。

実際にまとまった改定案は、援助研究会の検討結果がかなり反映されている。最大のポイントは、①中進国に対する今後の協力のあり方(タイは「援助」という言葉を嫌っており、「パートナーシップ」という対等関係を指向している)、②対等関係に基づき、域内協力を日・タイの協力の下でいかに進めるか、という2点にあったと思う。従って、外務省は「援助計画」という言葉を使っていたが、S先生は「協力計画」と言葉を変えておられた。

タイはもはや資金援助を必要としていないが、依然として日本の経験やノウハウは欲してる。例えば、タイはアフリカ援助も積極的に推進していきたいとの意向のようだが、このような援助実施側のノウハウはタイ政府も未だ十分に有しているわけではない。また、タイでは一村一品運動がある意味日本よりも盛んであり、既に農村部での大学就学率も相当高い水準に達しているとのことである。フロアの特にNGOの関係者からは、「マクロから見た姿と実際に草の根で起きていることは違う。所得格差の問題は依然として存在しており、引き続きODAでの支援は必要」との意見が多く出されたが、S先生は、そのようなソーシャルセーフティネットを自前で構築するだけのキャパシティを既にタイは持っているので、ODAで何ができるかを考えるよりも、タイが自らどのように取り組んでゆくのかを見守るべきと反論されていた。

また、S先生の発表の中で特筆すべきはタイの少子高齢化問題に言及されたことである。今朝の新聞報道で、日本の2004年の合計特殊出生率が1.28で過去最低を4年連続更新したという記事があったが、タイは現在1.8程度に下がってきており、人口維持に必要な2.08を既に下回っているのである。

公聴会の後、S先生にお誘いを受け、焼酎グラスを片手に引き続きいろいろなお話をうかがった。大学のディスカッションで僕は、「IMFや世銀のエコノミストとS先生のようなキャリアの方が議論しても話がかみ合わないだろう」と発言したことが指導教官のお怒りを買った直接のきっかけだったと記憶している。僕は決して日本の地域研究者がIMF・世銀のエコノミストに劣ると言ったつもりはなく、そもそも地域や課題へのアプローチの仕方が違うのだということを申し上げたかったのだが、飲みながらS先生が数年前に当時東大から世銀に出向中だったK先生に短期間でも世銀に来ないかとお誘いを受けながら結局断ったというエピソードとか、自分と世銀のエコノミストとでは話が合わないのではないかというお話とか、うかがった。

エコノミストが経済指標をみてその国のことをとやかく言うのは簡単だが、その国にどっぷり浸かって、現地語でいろいろな人々とコミュニケーションがとれ、政府高官との政策対話とは別次元のその国の実情を知ることのできる日本の地域研究者の方が、本当はその国のことがよく見えているのではないかと改めて実感した。S先生と飲んでみて、タイの隅々までよくご存知の先生の情報網と分析力に頭の下がる思いだった。


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