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移民と開発 [外国人労働者]

1.問題意識の背景

開発資金の動員策検討:MDGsを達成するためには、援助量の増加のみならず、開発資金の途上国への流入をFDIや貿易、外国送金などの民間資金によって増額せねばならないというコンセンサスが、モンテレー開発資金国際会議(2002)以降、国際社会では共有されている。

外国送金の規模と安定性:とりわけ、途上国からの出稼ぎ労働者が本国にもたらす外国送金は、2003年の純流入額が1,159億ドルとなり、ODAの690億ドルを大きく上回っている。また、外国送金は受入側の先進国の景気に左右されにくく安定的な増加傾向を示している。このため、外国送金を開発資金としていかに有効に使うかに注目が集まっている。

政策の一貫性:米シンクタンクであるCenter for Global Development(CGD)は、途上国の開発に向けたDAC加盟国の政策の一貫性を比較するため、「開発コミットメント指標(Commitment to Development Index: CDI)を2003年より発表。この中で「移民」は主要7項目の1つを占めている。評価は、外国人労働者、留学生、難民受入数によるため、我が国に対する評価は厳しい。

Global Commission on International Migration(GCIM):2002年の国連総会で移民が重点分野と位置付けられたのを受け、①移民を国際的アジェンダとして取り上げ、②現在の政策・アプローチ間に見られる齟齬を分析して論点を整理し、③事務総長宛提言をまとめること、を目的として2003年12月にGCIMが設置された。各地域でのマルチステークホルダー対話と数次のコアグループ会議を経て、2005年末までに最終報告書をまとめる予定。

移民(Migration)の特徴
Castles and Miller(1998)によれば、近年の移民の特徴は以下の5つのキーワードに集約されるという。
Globalization:より多くの国の間で移民が起きるようになってきている。
Acceleration:交通手段の発達とともに移民の数が急増している。
Differentiation:移民の性格が多様化している(出稼ぎ労働、難民、定住など)。
Feminization:女性労働力の移動が増加している。
Politicization:移民問題は、国内政策の範疇を超え、域内、さらには全世界的規模での政策との整合性が求められるようになってきている。

2.主要な論点

(1)外国送金の貧困削減効果

送金の円滑化:単純な経済モデルでは、送金が行なわれることによってはじめて送出国側にプラスの利得が発生することが示されている。このため、世銀などでは現在、外国送金を円滑に行ないその規模を拡大するため、銀行業務の改善や貯蓄性を向上させる金融商品の開発などを含めた銀行・金融セクターの改革、中間搾取を行なうブローカーなどの介在抑制といった方向性が議論されている。

送出国国内雇用機会不足への対応:外国送金は、国内に十分な雇用機会がない小国や島嶼国などにとっては貴重な雇用機会と外貨の獲得手段となっている。

送金の使途:他方、送金の受け手は、これを食料や衣服、耐久消費財の購入、土地・住宅取得、補修、建設などに充て、起業のような生産的な活用があまり行なわれず、民間セクターの活性化には繋がらないとする見方がある。このため、貯蓄性向改善に向けた銀行・金融セクター改革や起業家育成セミナーの強化などが必要と考えられている。

出稼ぎ労働者の出身階層:国外に出稼ぎに出られる労働者は最下位の所得階層出身者ではなく、学歴も高いと見られており、外国送金がむしろ生活格差の拡大に繋がる恐れがある。

(2)送出国の社会的コスト

都市化:国外出稼ぎの前にいったんは都市に人口が流入するため、移民は急速な都市化と都市の失業率上昇、生活コスト上昇などの問題を助長すると考えられる。

頭脳流出:国内で熟練労働者が不足する。また、最も生産性の高い階層が国外に流出するために送出国経済の潜在成長率に悪影響を及ぼすことが懸念される。

家庭・家族への影響:長期間家族と別れて暮らすことにより、家庭不和、精神的不安定といった問題を引き起こす恐れがある。特に、先進国の高齢化や女性の社会進出を背景とした途上国女性の看護・介護分野での出稼ぎは、送出国の家庭内の役割分担に影響を及ぼす。また、男性の出稼ぎが長期間にわたる場合、送出国に残された配偶者・家族が不意の送金停止によって困窮するリスクも懸念される。


(3)先進国の受入政策と途上国開発支援政策との整合性

選別:CDIは移民の受入数が多い国に高い評価を与えるが、多くの先進国の受入政策は自国経済の発展に都合が良い職種の「選別」(熟練労働者の定住、未熟練労働者の一時的受入れ)を行なっているという点では共通しており、途上国の開発や貧困削減を上位目標と定めているわけではない。

二極化:土木・建設といった未熟練職種での労働者受入れは、先進国・途上国間の賃金格差だけでなく、先進国内でも高技能職種と未熟練職種の間の賃金格差をも拡大し、生活の二極化が進むと懸念される。


(4)変則的移民(Irregular Migration)

受入国に関する課題:受入国側では、亡命や不法移民のような変則的な移民と通常の移民の受入手続き間で政策的な整合性を取る必要性が指摘されている。変則的な移民は国家主権に対する脅威と見られることが多いが、他方で低廉な労働力への需要(プル要因)も大きい。

送出国に関する課題:貧困や生計機会の制約など、変則的な移民送出が発生するメカニズム(プッシュ要因)を理解する必要性が指摘されている。送出国側の状況が、移住労働者の帰還・再定住や人身売買といった問題への取組みを困難なものにしている。


(5)地球規模で整合的な移民政策の形成

様々な利害関係者:移民は、送出国、受入国の双方において所得と生活の格差を拡大する可能性があるため、双方の政府間だけではなく、双方の雇用者団体、労働者団体、外国人労働者擁護団体、NGOなど、様々なステークホルダーが参加し、地球規模で整合性の取れた移民政策の導入促進を図る必要がある。

新たな制度的枠組み:IOM(International Organization for Migration)、ILO、UNHCRなど、人の移動に関連した諸課題を取り扱う国際機関が既に存在する現状、当事国の多くは、地球規模で整合性の取れた移民政策の導入促進に向けて新たな国際的制度枠組みを構築することには懸念を持っている。

3.問題提起
長期の社会的コストの重視:外国送金のマクロ経済的側面を見て評価するだけではなく、移民のもたらす長期の社会的コストについても注意する必要がある。受入国における移住労働者の処遇、送出国に残された配偶者・家族への影響、国外での雇用機会を得られる階層と得られない階層の格差等にも十分な配慮をすべき。

途上国側のプッシュ要因の重視:援助実施機関としては、移民を送出する途上国側のプッシュ要因に対する取組みが必要。即ち、投資環境の整備や雇用状況の改善により自発的移住の相対コストを高めるとともに、低所得者や政治的社会的弱者が非自発的移住を行なう根本要因にどう取り組むのかが問われている。

政策の一貫性:政策の一貫性は先進国に限った問題ではなく、移民を送出する側の途上国においても、移民送出政策と他の開発計画、特にPRSPとの整合性の確保が求められる。国の置かれた状況にもよるが、国内雇用機会の創出を図るのか、国外雇用機会の獲得行為を促進するのか、プライオリティをよく見極め、援助もこれを支援する方向で実施することが肝要。

以上

参考資料
Castles, Stephen and Mark Miller (1998), The Age of Migration, Guilford Press
Global Commission on International Migration (GCIM) HP: http://www.gcim.org
Ito, Chiaki (2005), International Labor Migration and Its Effect on Poverty Reduction: Critical Review on the Current Literature, 1st draft, IFIC-JICA
World Bank (2003), Global Development Finance 2003, The World Bank
---------------. (2004), Global Development Finance 2004, The World Bank


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nonnon-akubee

こんにちは!
移民問題についてとっても詳しく書いてあって
感心しながら関連記事含めて読ませていただきました。
社会科の勉強をしてる気分をちょっと思い出します(笑)
これからまたいろんな記事をじっくり読ませていただきたいと思ってます!(^^)!
by nonnon-akubee (2005-10-04 22:58) 

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